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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

ジョセフHOUSEでの夕食会

                ≪十月十九日≫    ―紫―


   一同、ジョセフHOUSEへ向った。
 ジョセフHOUSEは厨房も浴室も一つで、共同で使用する。
 おかげで、夕方になろうものなら、台所は完全にふさがってしまう状況  
 だ。
 今晩は、二組の毛唐が台所を占領してしまっている。
 毛唐の料理を覗き込む。

   鍋には大きな肉やらジャガイモなど、いろんな食材をぶち込み、ごっ 
 た煮している。
 美味そうだ。
 鍋一つで、栄養満点な料理を、素早く作ってしまう彼らには、いつも驚か 
 される。
 我々と言ったら、料理に時間がかかってしまう。
 それもそのはず、ジャガイモはきれいに皮を剥き、小さく刻み、玉葱も小 
 さくなるぐらい皮を剥く。
 野菜は、丹念に洗い、食べやすく小さく刻む。

   実に細かい作業をするのだから、当たり前なのかも知れない。
 食べてしまう料理さえ、美しく、食べやすいように料理する。
 これが日本人。
 毛唐は、何でもかんでも、ぶち込んでしまう。
 これが毛唐流の料理。

   今晩の料理は、野菜炒めに、パンとミルク、そしてヨーロッパ原産の 
 ワインだ。
 何やかやと言っても、食事の一番美味しい食べ方は、こうやって仲間が集 
 まり、ワイワイ談笑しながら、時間をかけて食することでしょう。
 夜の深まるのも忘れ、旅の苦労に花を咲かせた。
 「やれば出来るじゃないか!」
 皆、自信に溢れた笑顔をしている。
 出発する前と違って、人間が一段と大きくなっているような、そんな会話 
 が延々と続いた。

   東南アジアから、日本に帰りたいと、叫んでいた新保君は、苦労話を 
 自慢げにしゃべっている。
 会長の側を、一時たりとも離れようとしなかったテッシンは、これから冬 
 のヨーロッパを、一人で彷徨う計画を、楽しそうにしゃべってる。
 言葉の通じない、未知の世界に身をおくことが、人間をこんなにも大きく 
 成長させてしまうものだろうか。

   人は旅を通して、もっともっと逞しくなる。
 それを妨げているものは、なんだったんだろうか。
 暖かい家庭。
 平和な社会。
 そう考えると、戦争が人や社会を破壊するように、平和も・・・ひょっと 
 して、人間を破壊してしまうものかも知れない。

   人は何のために生まれてきたのか?
 老後の安らぎだけを得るために生かされているというなら、俺はそんなも 
 のは欲しくもない。
 生きている証を掴み取る為なら、人はどうして一つ所に留まろうとするの 
 だろうか。
 失って悲しむものなど、手にしなきゃ良いのに。

   いつの時代も、人が生きていくための・・・、生きがいを掴むための 
 矛盾が存在する。
 今の俺は、すべてを捨てた。
 失うものなど、何もない。
 今俺は、生きている証を手にしたのだ。
 俺は今、断言できる。
 俺の24年間は、今花開いたと。


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